結婚おめでとう!


(――こんなに早くお嫁に行くとは思わなかった。と笑う母に娘が苦笑を零したのは、昨夜の話だ。昨夜は“三國“の姓を名乗る最後の日であるからと夕食を実家で摂ったのだ。その時の会話と言えば、これから先の話ではなく思い出話―三國の子どもの頃から今に至るまでの。その時に彼の話も出て、当時父がどういった感情で彼の指示に従ったのかという事も初めて耳にした。あの時はまさに怒り心頭状態だったけれど、今はその出来事にも感謝していると言ったら彼は笑うかも知れない。いつになく飄々とした態度で当然だろ、と。今度、思い出話をする機会があれば聞いてみようと心に決めたのはよかったけれど、実際に聞く機会などは一日やそこらで得られるものではなく今現在進行形で謎のまま。――鏡面越しに髪を結いあげる女性が映り、その手際の良さに目を奪われておれば視線が合い笑いかけられる。何となく気まずさを感じ苦笑を零せば、「任せてください。旦那様がびっくりするくらい素敵な花嫁にして差し上げますから!」にっこりと微笑まれ、髪型の心配をしていたように 見えたのだとそこで初めて気が付く。悪い事をしたなと思いつつも訂正しない辺り、三國らしいのかも知れない。ただ一つ普段と違うのは、花嫁というたった一つの単語に気恥ずかしさを覚えている事だろう。同棲ではなく、家族として共に過ごす事になる。その事実が嬉しくもあり、何となく恥ずかしかった。他人から“家族“へと変化するというのは言葉だけでは言い表せないくらいの戸惑いが三國の中にはあった。どう接すればいいのかだなんて、今までと同じで大丈夫だと頭では理解しているのだけれど、果たしてきちんと行動に移す事が出来るのだろうか。嗚呼、こんな事を口にしたら彼はきっと笑う。でもそれさえも愛おしくて仕方がないと思う自分も相当彼に溺れているのかも知れない。本当に幸せな悩みだ。くすり、と小さな笑い声が零れる。「お幸せそうですね。やっぱり花嫁には幸せそうな顔がよく似合います」と女性は作業を止めずに笑うのだ。)ありがとうございます。でもそんなに分かりやすいですか…?(性格上余り分かりやすいと言われた事はないのだけれど、と内心 首を傾げつつ女性の返答を待てば――その返答に驚きつつ納得をしてしまう。伊達にこういう仕事に就いていないという事なのだろう。そうこうしているうちに化粧も髪型も丁寧にセットされ、鏡の中にはいつの間にか見た事もない自分の姿があった。思わず鏡の自分に手を伸ばし確認してまう。)一瞬、誰かと思った……流石ですね。(そう呟けば女性は満足そうに微笑んだ。早く彼に見せたい、驚くだろうか。否、驚いてくれたらいい。驚かされるのはいつも自分なのだから偶には、と思うのは少し意地悪だろうか。本人無自覚に緩む頬が何を物語るかなんてそれこそ愚問で。そんな中、突如として軽快なノック音が響いた。女性と顔を見合わせて笑い、はーいと返事をして立ち上がりドアノブを回そうか。そこにはきっと待ち望んだ姿がある筈だから。―『今日は幸せへのスタートラインですから』と女性はそう言ったのだ。だから、一緒に幸せになりましょう?リボーンさん。)