結婚おめでとう!


(愛しい彼女とゲームを行ったのももう随分と昔の話――彼女と想いが通じたあの日から早4年の月日が流れようとしていた。当時高校生だった彼女の姿はもう何処にもなく、今は大学4年生。成人を迎えた立派な大人の女性だ。我ながらよく我慢したものだと思うけれど、彼女が成人するまでは手を出す気は更々なかったのもまた事実。初対面の時こそ3ヶ月後に結婚などと急かしたものの、実際想いが通じ合ってみれば余裕もそこそこ出てくるもので同棲だけでも十分に満足が行く生活を送れていた。――“浮気すんじゃねえぞ”と言ったあの日、結局すぐ帰るとは言ったものの何だかんだで手間取ってしまい、結局帰国出来たのは1ヶ月後であった。それにも関わらず彼女は待っていてくれた。それがどれ程嬉しかったか彼女に分かるだろうか。もう二度と離したりしないと、幸せにすると改めて心に誓った。それを叶える日がようやく来た。待ちに待った彼女との結婚。晴れて夫婦となり、永遠を誓い合う。永遠というのは柄ではない事は承知の上だけれど、己の一生を捧げるのは今まで生き ていた社会の為ではなく彼女の為に。仕事以上の大切なものを初めて見つける事が出来た唯一無二の存在をこの手で守るとそう決めたのだ。)……似合わねえな、やっぱ。(姿見用鏡に己の姿を映し、眉を顰める。無難にタキシードスーツを選択したものの矢張り着なれない。白は似合わない自信があった為に色も黒にしたけれど、堅苦しい格好というのは長い付き合いである始終スーツを着ている男の方がどう考えてもお似合いだ。ちっ、と舌打ちをして新郎用にと設けられた待合室のソファにどかりと腰を下ろした。ぐっと詰まるネクタイを少しだけ緩めて、息を吐く。見上げれば真っ白な天井が視界を埋めた。彼女も今頃準備の真っ最中だろう。邪魔する訳にもいかないが、彼女が居ないというのは退屈だ。元々忙しなく何かをして来た生活だったからか、暇を持て余すといざって時に何をすればいいのか思いつかなくて困る。額に手を添え、違和感を覚え怪訝そうに眉根を寄せ、)あ…そうか。今日は外さねえといけねえからか。(結婚式という事もあって外していたんだとすぐに納得を。し かし普段殆どの時間をバンダナと共有しているのだから違和感もそれなりのものである。何となく落ち着かない、そんな言葉がよく似合う。嗚呼、彼女に会いたい。今朝会ったばかりだと言われるかも知れないけれど、夫婦になる前にもう一度。そう思った後のコロネロの行動は早かった。まさに思い立ったが吉日。控室を飛び出して、新婦の控室へと向かう。扉を前に息を吐いて、緩んだままのネクタイを結び直し、ノックをしよう。さあ、扉の先にはどんな顔をした彼女が待っているのだろうか。ただどんな顔をしていたとしても、コロネロが告げる言葉は変わらない。「Ciao、il mio amore」――よう、俺の愛しい人。)